B-10.紺紙金字大宝積経巻第三十四(出現光明会第十一之五)






巻頭
見返し絵は三尊形式で頭上に天蓋のあるタイプです。
が表紙の銀で描かれた宝相華が見返し絵の表面に透っています。


三紙目周辺
金字の鮮やかさもさることながら、正確に引かれた銀界の輝きも特筆すべき点です。


七紙周辺
これ以降は虫食いは殆どなくなります。


巻末 
左下に朱文字で二文字が書かれています。校了のしるしと思われますが、判読できず。
巻末の数紙は巻きが細くなるため巻シワが出来ています。



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サイズ 紙高255o、全長7100o界高およそ193o、界幅19o

 

紺紙金字大宝積経巻第三十四一巻(出現光明会第十一之五)

 

紺紙金字大宝積経巻第三十四一巻完品です。
平安時代末期の様式を備えた紺紙金字経で、美福門院願経の荒川経(解説)と類似点の多い経です。

荒川経は勅願経である神護寺経に比べ、質が劣るイメージで語られる傾向にありますが、根津美術館の図録『植村和堂 古写経』の解説によれば、「(荒川経は)神護寺経敬造の直後ということから、人手も準備も完全な状態にあった事は確かで、料紙も文字も経絵も極めてよく似ており、僅かに表紙、見返しの相違から見分けることができる。」とあります。
実際にご案内の経と神護寺経を直接見比べる機会を持ちましたが、神護寺経に比べ紙高がやや小さく、見返し絵の華やかさと軸端の質で劣るものの、界高は同一で、書風、金字や料紙の色調は一見しただけでは見分けがつかぬ程でした。さらに京都国立博物館蔵の荒川経(仏説阿弥陀経)と比較すると、見返し絵が同様の様式で紙高の255oは完全に一致します。

 

保存状態など

一紙27行、表紙+経文13紙で欠落、錯巻は皆無(大正蔵経で繋ぎ目を確認済)で、軸端はオリジナルのほぼ完全な状態です。
書風は誇張の少ない堅実なもので、終始乱れはなく、文字のカスレもありません。特筆すべきは料紙の鮮やかさで、年月を感じさせない明るい瑠璃色は目を見張るものがあります。
虫食いは巻頭から数紙に渡って見られますが、中間以降は虫穴のない状態が巻末まで続きます。
尚、虫穴は小さく、穴から補修があるため、表では殆ど目立ちません。
その他、巻末付近に巻きが細くなる事で出来た巻シワが生じていますが、全体に860余年の年月を経た品としては完璧に近い品です。

伝来に関して
いくつかの特徴が荒川経に似るものの、膨大な巻数の一切経は必ずしも同一の様式、規格で作られている訳ではありません。
従いまして伝来を特定するには更なる調査が必要と考えます。

民間で散見する断簡となった粗末な「荒川経」とは比較にならない上質な経です。

状態の良い紺紙金字経一巻をお探しの方は是非ご検討ください。